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2019-10-21 (7)


カプコンの小野義徳氏が、CPT欧州地域決勝大会(リージョナルファイナル)も実施されたイギリス・ロンドンのゲームイベント「EGX 2019」のトークセッションに登壇しました。

小野氏は以下のようなことを語りました。


【カプコンに入った動機と音楽の話】
いつまでたっても(カプコンに)入社した25~6年前の22歳の気持ちでいる。
カプコンに入る前にファイナルファイトが出てきて、大好きだった。
その前のストリートファイター1も好きだったけど、ファイナルファイトにすごくお金を投資してたので、カプコンに入社する時はファイナルファイトにいっぱい入れたコインをペイバックしようという風に言ったら「キミ、面白いね~」と言われて入社した。そこまで格闘ゲームが、とかいうとそうでもなかった。
ありがたいことに僕のタイトルを皆さんいっぱい買って頂いて、ペイバック以上のものは貰えたけど、よく学生時代に会社の偉い人にそんなことを言えたな、と今ではドキドキする。
今は2000人以上開発チームがいるけど、僕が入った26年くらい前(1992年か1993年)のカプコンは、今ほど大きくなかった。夜中も昼もないような、会社のテーブルの下で寝るのが認められていた時代。
今なら訴えたら数万ポンドのお金が手に入ったと思う。

カプコンに入った理由はペイバックともう1つ、音楽で仕事で出来ることが当時なかなかなくて、本気でミュージシャンになるくらいしかなかった。
その当時、カプコンがサウンドデザイナー・作曲家を募集していて『これなら音楽でご飯が食べれるし、これなら女の子にモテるぞ!』と思って悪い気持ちで入ったのがきっかけ。
ギターをやる前はピアノをやっていた。ピアノって今でこそおじさんになったらモテるなと思うけど、若い頃はバンドで一番後ろにポジションがあるので、みんなに見て貰えない。ギターは前に出てくると「キャーッ!」って言われるけど、キーボードだと後ろでひいてるだけだったので、そういうやましい気持ちでギターに変わった経歴がある。


【ストリートファイター4開発のきっかけ】
当時、カプコンに入った時にはストリートファイター2が出てきた。
そのままスーパーストリートファイター2のチームに入ったのが僕のストリートファイター人生の第一歩になった。
その当時からZERO、3、4、5とストリートファイターにずっと関わることができるポジションにいられたのは良かった。
当時は日本では『キてるな!』って思ってたけど、世界でも『キてるな!』っていうのは鬼武者を担当するまで分からなかった。
鬼武者を担当してる時に、当時ロックマンを担当してた上司の稲船と、ワールドツアーでインタビューしている時に「小野さん、ストリートファイターはもう作らないの?僕らはスト2とか3だけでまだやってるんだけど」と声をかけられて、『あれ?これ、世界でストリートファイターファンがまだいるぞ!』と気づき始めた。
それがきっかけで『じゃあ、4を作らなきゃいけないな』と思って、社内活動をして4を復活させて5に至った。鬼武者の時にファンやメディアの皆さんが伝えてくれたことが、ストリートファイターをもう一度復活させたきっかけ。

スト4を作るのはめっちゃ難しかった。
当時、カプコンには「格闘ゲームなんてもう作らなくていいよ」っていう空気が99.9%あった。
上司の稲船と、現会長で当時社長だった辻本の2人が、「うーん・・・まあ作ったら?」と言って99.9%をひっくり返せた。今でもその2人には感謝してるし、格ゲーファンもあの2人には感謝した方がいい。
辻本会長から「上手くいかなかったら別の奴に作らせたらいいかっていう気持ちやったわw」と笑いながら言われて、『失敗したらクビだったんだ・・・』と今になって思うとヤバかった。


【ゲームづくりで注意していること】
ストIII3rdの時点で、僕自身もだいぶ難しくなったなと感じていた。
でも上手い人からすれば「まだまだもっと、もっとシステムをくれ」というのがあったので、上手い人とこれから入ってくる人とのギャップが出たことが格ゲー衰退の原因だったのかなと反省している。
ストリートファイターに限らず部下が作るタイトルも含めて注意しているのは、入り口はちゃんと低く、入ったら中は深くということ。
コアゲーマーの人たちが「えっ、簡単かな?」と思って入りやすい、でも入ったら奥深いシステムがある。素人の人達が入ってきても「このゲームは入りやすいな」と慣れさせるようなシステム作りをしようというのは、クリエイター人生の中で今でも注意している。


【スト4でボツになったアイデア、スト3の失敗】
シミュレーションゲームにしたいなと、何もせずに自分のやりたいことをブロックのように置いてやるゲームがあったら画期的かなと思っていた。
スト3ではブロッキングという数フレームの間でレバーを入れないといけないのがあって、スト4もいくつか数フレームの間で入れないといけないコマンドがあったけど、それがもっと4の初期の企画では入力時間の制約があった。
そういう部分は『やめていきましょう』と、はじいた仕組みがあった。
ブロッキングがダメだとは思ってなくて、スト3はブロッキングが使えないとスト3の楽しみが満喫できなかったというのが原因だったと思っている。
ブロッキングがone of themであれば良かったなという、スト3のシステムの中で失敗とは言わないけど、味付けにミスをしてしまった。4や5では、それが使えなくても楽しめる仕組みを作ろうというチームの総意で動いていた。


【社内の99.9%から叩かれたスト4の開発】
4が大ヒットになって、正直99.9%の奴らには『ほらね』というのは確かにあった。
今でこそ言えるけど、99.9%の反対があったからこそ。
25~7年のキャリアの中で、一番社内で叩かれてた時期だったと思う。
これだけキャリアを積んできた中で「小野さん、そんなものを作るのはやめてくれ!」というのはその時が一番深かった。
それがあったおかげで、部下がこれから作ってくるものへの接し方が分かるようになったし、ディレクターがどういうものに苦しむのが分かったので、非常に良い経験が出来たと思っている。


【スト5をこれまで支えてくれたファンへの感謝】
5年前の時はこうなると思ってなくて『やっちまったぁぁぁぁ!!』というのがすごく多かった。
この4年、5年支えてくれたファンの方と、復活させられるように「すごく良くなったじゃん、すごいこれ面白いじゃん」と言ってくれたメディアや関係者の方々に感謝しかない。
ストリートファイターファンは毎朝、僕のTwitterにFワードを送ってくる厳しい人もいる中で「こうしたらいいんじゃないの?」「ああしたらもっと面白くなるよ」と建設的な意見をガンガン言ってくれる人も結構いて、その中で取り組んだり『そうだよね』と話し合う意見を多く頂いた。
見放さずに「このタイトルを一緒に盛り上げましょうよ」という声が数年間続いてくれたことは、ありがたい、ストリートファイターブランドはついてるなと感謝している。


【今後の目標】
僕自身、このジャンルをいかに”決められた人たち”じゃない人たちでも、プレイもしくは観戦できるジャンルに育てていきたいと思っている。
(スト5の)新キャラの発表はEVOで言った通り、11月と12月まで言わない。
ヴァンパイア新作は、ここに箱を置いとくので、皆さん10ポンドづつ寄付してくれたら、それが溢れるくらいになった時に作ります。
ファイナルファイトを出したい。企画書だけは出してるけど、カプコンの承認会議が通らないので、ずっと書き続けたい。


【スマブラにブランカが出ない事に対して】
たぶん桜井さんが好きじゃないんだと思う。
桜井さんとの話の中でも、ブランカという言葉が一言も出なかった。
知らないか、そんなに好きじゃないかのどっちかだと思う。
次に桜井さんから連絡が来たら『これ知ってますか?』と推してみようと思う。


【スト4とスト5のSwitch版について】
むこうの任天堂ブースの偉い人に言えば、あるかもしれない。
ウルトラストリートファイター2が出た理由も、「25年ぶりにスト2を作り直しましょうよ」と任天堂から強いオファーがあったから。


【キャラクターの名前の付け方】
最近は、キャラの名前はカプコングループ全体から「こういう名前の候補があるけど、どうだろう?」と選択制になっている。
なぜかというと、日本人が勝手につけてた名前はあまり皆さんが聞いた時に響きがよくなかったり、「今、流行りじゃないよねこんな名前」っていうズレたりしてるところをなおしていくために、3~4つくらい候補を出して、世界中のカプコングループの人達にどれがいいと思うか聞いている。


【スト6について】
ストリートファイター6はまだ作っていない。5のアップデートに必死。
来年か再来年のEGXくらいで作り始めましたよと言えたらラッキーかなと、しばらく待っててほしい。


【鉄拳vs.ストリートファイターはいつ?】
バンナムブースの偉い人に聞いたらもしかしたら答えてくれるかもしれない。
あとは、原田さんにTwitterで「いつですか?って小野さんも聞いてました」ってメッセージを送ったら「え~・・・」って返答が返ってくると思う。


【小野氏が作りたいゲーム】
マーベルvs.カプコンは作った。バットマンやスーパーマンとは戦ってないので、DCとストリートファイターを戦わせてみたい。
『マーベル vs. DC vs. カプコン』が出来れば、僕の最後の夢がかなって終われるので、それに向けて頑張る。


ゲームストリーミングサービスでの格ゲーの可能性】
よく僕のTwitterとかFacebookに突撃してくる人達は、だいたいネットコードの話をしてくる。
「ネットコードをもっと良くしろ」「もっと反応速度を良くしろ」とかいう話がよくくる。
僕がよく回答しているのは、『光よりも速くはならないんです』。光回線で通信してても3F、4F遅くなる。ストリーミングになると映像もついてこないといけないので、今のスト5のような格ゲーでは難しいと思っている。ストリーミングゲーム用のストリートファイターを開発できれば、もしかしたらStadiaでもストリートファイターが出来るようになるかもしれない。
テクノロジーの進化を見ながら考えていきたい。


【TEPPENの追加コンテンツ】
TEPPENはカプコンで作ってないので、何かを言ったらインサイダーな話を言いそう。
知ってるか知ってないかで言うと、知っていると思うけど、僕が言うとマズい。
Twitterでガンホーに聞いておきます。